東京地方裁判所八王子支部 平成12年(ヲ)5529号 決定 2000年7月06日
申立人(買受人)
アークホームズ株式会社
代表者代表取締役
穐谷行雄
代理人弁護士
原口健
同
久保田理子
同
土井智雄
同
設楽公晴
相手方(申立債権者)
株式会社整理回収機構
代表者代表取締役
鬼追明夫
支配人
保田順和
相手方(所有者兼債務者)
有限会社菅商事
代表者代表取締役
秋山三郎
主文
本件基本事件の平成一二年六月二二日付け申立人に対する売却許可決定を取り消す。
理由
第一 当事者の申立て等
別紙「売却許可決定取消申立書」のとおり主張した。
第二 当裁判所の判断
一 記録によれば、後記物件目録一ないし三記載の各土地(以下「本件土地」という。)及び同目録四記載の建物につき、本件基本事件について申立人に対して平成一二年六月二二日付けで代金二億六三一八万九〇〇〇円をもって売却許可決定がなされたこと、本件土地は、立川飛行場の滑走路の延長線上に位置(滑走路の着陸帯端から六七五m、滑走路中心線から二五mで滑走路進入表面内にあり、滑走路の基準面高が91.15mで、本件土地の標高が88.10m、差高3.05)することから、本件土地については航空法四九条による建築物(屋上のアンテナ及び給水塔等を含む)の高さ制限(本件土地については16.05m以下に制限、以下「本件建築制限」という。)がされていることが認められる。また、本件土地は、遊戯場の店舗敷地として使用されているものであるが、その場所からすると最有効利用としては、中高層マンションないし店舗の敷地としての利用が考えられるところ(用途地域、第一種中高層住居専用、商業)、本件建築制限は、本件土地の右最有効利用の妨げになる虞があることは明らかである。
二 しかるところ、記録によれば、本件現況調査等に基づいて売却条件を定めて物件明細書の作成をし、それに基づいて評価された評価書に則って最低売却価額を決定するに際して、本件建築制限の存在が本件記録上に現われていないことからすると、それは考慮されなかったものと認められる。
ただし、本件建築制限があっても、本件土地の最有効利用の一つである中層マンションないし中層の店舗建物の敷地として用いることは可能であるので、本件土地の評価ひいては本件最低売却価額決定に結果的に著しい誤りがあったとは言い難いが、前記のとおり、本件土地に高層マンション等の建築を予定するものにとっては本件建築制限の有無は、本件入札に参加するか否かの判断を左右する重要な要素であり、また、その本件建築制限は不動産業者を含めた入札者には必ずしも公知である一般的法規制であるともいえない。したがって、執行裁判所は、本件土地・建物の売却条件とその現況、評価の過程を公開して、入札希望者に競売物件についての基本的情報を開示する目的で備え付けているいわゆる三点セット中に本件建築制限の存在を警告する記載をすべきところ、これがなされていないことは記録上明らかである。
三 そして、記録によれば、申立人は、マンションの販売等を目的とする不動産業を営む会社であって、本件土地に一〇階建のビル(合計マンション三二戸)を新築して分譲する計画をもって本件土地を買い受けたものであることが認められ、また、申立人にあっては、本件土地についての売却許可決定を受けた後その代金納付前に、本件建築制限の存在を地元の業者から指摘を受けて知ったものであることが認められるのであるから、申立人が公知でない本件建築制限を入札に当たって了知しなかったことをもって、過失があったとはいえない。
四 以上によれば、本件は、売却許可決定後買受人の責めに帰することができない事由により不動産が損傷した場合に準じるものと認められるので、代金納付前になされた申立人の本件申立ては理由がある。
よって、民事執行法七五条一項を類推適用して、本件売却許可決定を取り消すこととして、主文のとおり決定する。
(裁判官・廣田民生)
別紙物件目録<省略>
別紙売却許可決定取消申立書<省略>